油断出来ない脂肪肝

(医療法人社団) 奥平外科医院 奥平定之
 
 近年、内臓脂肪蓄積によって生じるメタボリックシンドロームが注目されつつあります。このメタボリックシンドロームの中で見逃せない内臓の状態があります。それが脂肪肝です。
 脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が必要以上に貯まりすぎた状態で、栄養のとり過ぎ、過度の飲酒でもおこる、よくみられる状態です。以前はアルコール飲酒による脂肪肝が殆どでしたが、飽食と運動不足の現代社会で、内臓脂肪蓄積によっておこるひとつの障害です。  このような、 過度の飲酒歴がなくてもアルコール 性肝障害によく似た脂肪性肝障害を起こしている状態を非アルコール性脂肪性肝疾患粕nonalchoholic fatty liver disease(NAFLD)と呼びます。 肝臓は元々沈黙の臓器と言われていて、肝細胞が破壊されてもある程度までは症状がでません。しかし、限界を超えると一気に症状が進み、元にもどれなくなります。
 NAFLDの約10%の人は肝細胞が破壊されている肝炎の状態です。 これを非アルコール性脂肪性肝炎 nonalchoholic steatohepatitis (NASH) と呼び、 NAFLD の進行した状態と考えられています。 この状態になると、適切な治療を受けないでいると5年から10年の間に5-20%の方が肝臓が硬くなる肝硬変の状態になります。 肝硬変になると、肝不全症状(黄疸・腹水・昏睡等)が出現する割合が40-60%、肝細胞癌を発症する可能性が5年間で約15%もあります。肝硬変になってしまうと、5年後に生きている割合を表す5年生存率は60-90%で、主な死因は肝不全、肝細胞癌といわれています。
 肝硬変まで進行してしまうと、ウイルス性やアルコール性の肝硬変と同じ病気の状態で、薬物療法では治療に限界があり、元に戻すことは出来ません。最悪の場合には肝臓移植が必要になります。
 このように、脂肪肝の中には治療をせずに放っておくと、知らない間に肝硬変まで進行してしまう場合があることを知っておくことが重要と思われます。
 NAFLDやNASHの治療は、メタボリックシンドロームがあるなら、食事療法や運動療法などの日常生活の是正が基本となります。さらに、糖尿病、高脂血症、高血圧などがある場合には、その管理も重要となります。ただ、NAFLDやNASHはメタボリックシンドロームに該当する人だけにみられるのではなく、外見で痩せ型の人にも少ないながらおこります。また、ある種の薬の内服でもおこると言われています。
  脂肪肝の状態は一般的な血液検査だけでは判断することが難しく、超音波検査や CT による検査が必要です。 超音波検査は痛みなどがない簡単な検査で診療所などでも受けることが出来ます。NASHが疑われた場合には、大きな病院で肝生検など、さらに詳しい検査を受けることをお勧めします。
  飽食、ストレス社会の現代において、糖尿病、高脂血症、高血圧は比較的認知度が高い病気ですが、それに隠れている脂肪肝も、忘れてはならない病気のひとつであることを是非認識しておいて頂きたいと思います。